一人ひとりの魅力を引き出し、伝わる声と話し方を磨く
ビジネスボイストレーニングで未来をつくる

話し方講座の講師として福岡で活躍する藤重知子さん。プレゼンや司会、仕事の現場で、人前に出る機会の増えた女性たちに、一人ひとりの持ち味を生かしながら、わかりやすく心に残る話し方を伝授する。そんな藤重さんのいまに続く道のりは、専業主婦から地域に育てられ、地道な努力の成果だった。

岡垣町に育てられて。

村山:藤重さんの声は美しくてあたたかみがあり、心地よく響きますね。子どもの頃からいい声だったんでしょうね。どんな将来を夢見ていましたか?

藤重:童謡が好きで大きくなったら「うたのおねえさん」になりたいと思っていました。そういえば小学1年生のとき、兄が出場するついでに出たNHKの童話コンクールで、最優秀賞をいただいたことがありました。

村山:それはすごい。才能があったんですよ。

藤重:いま、久しぶりに思い出しました…。そう言えば、当時のテープも残っているんですよ。

村山:わ、可愛いでしょうね!でも、進学は福岡教育大学へ。先生に進路変更ですか?

藤重:いえいえ、北九州の実家から通える大学ということで福岡教育大学へ。先生になりたいと思っていたわけでもなく、大学3年生のときに親のすすめでお見合いして、卒業してすぐ結婚しました。

山:大学卒業と当時に結婚?!

藤重:はい。すぐに主人が東京へ転勤になり、6月から主人の転勤先で社員として働いたんですよ。補助的な業務でしたが、まわりの方に優しく教えてもらって、とても楽しかったです。でも、1年足らずで福岡へ戻ることになり、仕事はやめました。それから女の子を2人出産して、昼間は仲良しのママ友たちと過ごしたりしていました。

村山:いい時代ですね。少しでもお勤めの経験をされてよかったですね。専業主婦から声のお仕事を始めるきっかけは?

藤重:上の子が小学校に入る前、30歳で岡垣町に家を建てました。当時人口3万人の町に「町の語り部講座」があり、興味を持って参加しました。アナウンサーや演出家など東京からもそうそうたる講師が来られて、1年かけて町の物語を掘り起こし、最後は舞台で上演。私はナレーションを担当したら、それを聞いた町役場の方から「町のイベントで司会をしてほしい」と声をかけられたんです。「やったことがないので…」と言っても「シナリオがあるから大丈夫」と背中を押されて、司会をさせていただきました。これが声を使った初めてのお仕事です。それから成人式の司会などいろいろと頼まれるようになり、それならちゃんと習おうと、プロの話し方講座に通い始めました。

村山:岡垣町に家を建てて良かったですね。

藤重:そうなんです、そして33歳のとき、町のことを取材して放送する岡垣放送のキャスターにならないかとお誘いいただき、思い切ってやらせてもらうことにしました。自分でカメラを抱えて取材して、編集の仕方も習って、番組を作って。とても楽しかったのですが、編集作業をしすぎて目の調子が悪くなったのと、私はアナウンスを上手になりたいなという思いもあり、キャスターの仕事は3年でやめました。それから福岡のアナウンススクールに通い、ナレーションの個人レッスンも受けて、事務所に所属して活動するようになりました。すると今度はアナウンススクールや専門学校で教えてくれないかという話をいたただいたんです。

40代で大学院へ進学。料理する夫に変化。

村山:30歳で講座を受けて、今度は教える側に。スピードが早いですね。次々に新しいチャレンジが目の前にやってくるんですね。

藤重:今考えると、いつもいい出会いに恵まれて、一つひとつ新しい扉を開いてきた気がします。初めてのことは大変で勇気がいるけど、背中を押してもらって「やってみよう!」と思い、その都度本を買い込んで勉強したり人に教えていただいたりしてきました。大学で教育カリキュラムの組み立て方を学んでいたのが、講師業で役に立ちました。そのうち企業研修のお話をいただき、企業でも教えるようになりました。

村山:努力の賜物です。お仕事をする中で、大切にしていることはありますか?

藤重:先生と言われる立場ですが、私自身は皆さんに喜んでもらって、一緒に成長していくことがすごくうれしいんです。いつも誠実に真面目に、正直でありたいと思っています。相手がやりたいことをお聞きして、どんなお役に立てるかなと一生懸命考えて、相手に安心してもらえるように、私は水面下でバタバタと足をこいで(笑)。研修の講師などをするときは、同じ資料やテキストを使い回すのではなく、その場や人に合わせて作りかえています。そういうところが喜ばれているのかもしれません。

村山:今は事務所に所属せず、フリーで活動されていますね。

藤重:はい、46歳で独立しました。事務所や研修会社を通して仕事をお受けすると、直接お客さんと打ち合わせができないので、「こんな内容の方が良かったなあ」と思うこともありまして。直接ご要望を伺って取り組みたいなと思ったんです。

村山:どんどんお仕事が広がって、ご家族はどんな反応でしたか?

藤重:土日は夫や母が子どもを見てくれて、助かりました。特に母は「あなたは声のお仕事がしたかったのね。あなたがやりたいなら頑張りなさい」と応援してくれました。子育て中でもまわりの人に助けてもらい、単発で時間の融通が利く仕事だったので続けられたのだと思います。
独立前には福岡教育大学の大学院に通って、修士を取りました。テーマは「夫の食事作りと家族関係」。私が仕事を始めてから、夫が週末の朝ご飯を作ってくれるようになったのですが、味付けが私より上手って気付いちゃったんですよ(笑)。家族がおいしいと褒めるものだから、夫の調理能力が上がって、家族関係も良くなりました。娘が帰省するときに食べたいものを聞いたら、全部夫の料理だったくらいですから(笑)。だから、夫の調理と家族関係を論理的に学んでみたいなと大学院に行きました。

村山:40代で大学院ですか。うらやましい。

藤重:独立して1年目の仕事が少なかった時期に、大学で1コマ講義をしてもらえないかと言ってもらい、ありがたかったです。それから公共の施設に勤める友人に声をかけてもらって、魅力がアップする話し方講座をすると、「またやってほしい」というご要望が多くて何年も続いています。コミュニケーション講座なども担当するようになりました。

村山:藤重さんはとても勉強家ですね。

藤重:学ぶことが好きなのかもしれません。47歳でキャリアコンサルタントの資格を取りました。人のキャリアを応援するのは素敵なことで、講師業の幅も広がるかなと思ったので。福岡県の女性リーダー塾「いきいき塾」にも参加して、いろんな業界で活躍する方々と学び合いつながりができたことは、貴重な経験になりました。

企業の現場で、ビジネスボイストレーニングのニーズを感じて。

村山:最近ビジネスボイストレーニングに力を入れていらっしゃるとお聞きしました。

藤重:企業の研修を依頼されることが増えてきて、一般の話し方講座とは違う枠組みが必要だなと思ったんです。2年前、話し方講座に来られた新卒の女性がいました。職場で「あなたの電話対応の声は暗い」と何度も注意されて、「どうしていいかわからない」「私には今の仕事が向いていないかも…」と暗く沈んでいました。その日は「お電話ありがとうございます。○○株式会社△△でございます」という短いフレーズを、何度も練習しました。すると次の講座のとき、彼女は晴れやかな表情でやって来て、「先輩に褒められました!」と本当にうれしそうに話してくれました。ほんの短いフレーズを練習しただけで人は変われるのだと実感して、私もすごく感激しました。
話し方だけでなく、立ち姿から発声法、滑舌、表情までトータルでお伝えするのが私のやり方です。ビジネスマナーの研修はあるけれど、声や話し方の研修というのはあまりないと思います。少しのコツさえわかれば自信を持つことができて、仕事がスムーズに進む。そんな仕事に生かせるビジネスボイス研修を広めていければと考えています。

村山:以前、アヴァンティで話し方講座をお願いした時、藤重さんは一人ひとりの話し方の特徴を瞬時につかんで的確にアドバイスされていて、驚きました。

藤重:ありがとうございます。36歳からアナウンススクールや専門学校でたくさんの方に指導させてもらい、1度に30~40人の方と接することも多かった中で、私は一人ひとりを見ることを心がけてきました。一人も取りこぼさない場づくりを目指しています。

村山:あの講座には管理職や経営者、議員さんなども参加されていましたね。

藤重:新入社員などの若手はもちろん、責任ある立場にいらっしゃる方々も、もっとうまく人に伝えたいと思われていることに気づきました。そこにビジネスボイストレーニングの必要性があると思っています。皆さん一人ひとりに魅力があり、素晴らしい中身をお持ちなので、それをさらにいい声で分かりやすく伝えるサポートをさせていただければと考えています。ビジネスボイスと言っても、電話の第一声から朝礼、プレゼンまで、シーンはさまざま。同じ内容でも声やトーンによって伝わり方が大きく違ってくることを実感してもらえる場を作っていきます。

村山:今後、日本でも言語化能力や伝える力が重要と言われていますから、ビジネスボイストレーニングは大いに期待できますね。

藤重:今は講師の仕事が大好きで、やりがいを感じてます。私が時間をかけて習得したことを伝えることで、相手の目がキラッと輝く瞬間があったり、話すことが楽しくなったと喜んでもらったりすることが本当にうれしくて、私ももっともっとお役に立てるように頑張ろうと思えるんです。これからも一人ひとりの素敵なところを尊重しながら、多くの方の声と話し方を楽しくサポートしてまいります。

藤重知子プロフィール画像

代表 藤重知子さん

小さな町の情報番組キャスター、各種ナレーター、MCとして活動。声を通して人と人を繋いできた現場での経験を生かし、近年は「声・話し方・表情・心」をトータルにアドバイスするオリジナルの講座で新たなフィールドを開拓。企業・地域・学校での接遇・コミュニケーション研修やママ向け・高齢者向け講座、そのほか起業家支援、キャリア支援など、「声」を使って一人一人の世界を広げるサポートを行っている。

プロフィールはこちら

取材後記

藤重さんが教えるのは、単なる話し方のノウハウではない。最初の3秒で引きつける第一声の出し方、1分で「コイツの話を聞いてみよう」と思わせる話の組み立て方など、ビジネスの現場で「デキる人材」になるための話し方だ。失礼ながら、「専業主婦だった方になぜそんなことができるのだろう」というのが私の疑問だった。今回、じっくりインタビューさせていただき納得した。岡垣町という地方に住み、そこで自分の価値に気づき、福岡の学校へ通う。学びを求める姿勢、一生懸命さ、いただく仕事に対する真摯な取り組み、そんな一つひとつの積み重ねがいまの藤重さんをつくっているんだなと思う。「量は質を凌駕する」というが、専門学校で多くの生徒に接した経験も大きいと思う。新卒で最初に訓練を受けなくても、子育てしながらこんな風になれるんだな、と感動した取材でした。夫を料理をする男性に育てる手腕も見事です。「ビジネスボイス」という新しいニーズを見つけた藤重さんに、これからも注目したい。

村山由香里プロフィール画像

村山由香里
株式会社フロイデール WEBプロダクション編集長兼チーフインタビューアー

元株式会社アヴァンティ編集長兼代表取締役。25年続き、福岡、北九州、熊本で発行した情報誌『アヴァンティ』では、「働く女性を応援する」をコンセプトに地元女性の生きる働く「いま」を取材し、時代の息吹を伝えた。また、2010年より5年間、福岡県男女共同参画センター館長として、次世代女性リーダー養成講座「ふくおか女性いきいき塾」の開催や、センターと経済界の連携、男女共同参画をわかりやすくWEBやSNSで発信など先駆的な取り組みをし、現在は、講演、執筆活動に加え「天神キャリア塾」をスタート。その人の魅力を引き出すインタビューで良質なコンテンツの創造に尽力している。

Photographer/高巣秀幸
Production cooperation/株式会社フロイデール

福岡を中心に声と話し方の個人レッスン・企業研修を専門で行っています。他県への出張も承ります。
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ